でぃす☆さがっ!【一日目】
■リク【準備】
ペットボトル入りのジュースにお菓子や食料、チョコレートももちろん完備。もともとネトゲをやっていたパソだから回線速度も要領も問題ない。
ベッドも後ろにあるから何時だっても転がれるし、小型冷蔵庫も完備。
テレビも横にあるし、クリックしながら読む漫画や小説だって手の届く範囲に全て揃ってる。
無線ランだから気分転換に場所を変えつつゲームをやり続けることだって可能だ。
邪魔な前髪をピンで留め、眼鏡の汚れを拭いて準備は万端。
「よし、完璧!」
栄養ドリンクを一気に飲み干し、ゲーム開始。
「必要な事とは言え、巣を作るのはどうなんだろうな……」
「はははー、ネトゲの現実知らないな。後でグラウは地獄を見るぞー」
「……」
嫌な予感を察したのか黙り込むグラウ。
想像したくてもネットゲームは未経験だから無理があったらしい。
当然色々と教えなければならないだろうから、先に一通りの操作はこなしておいた方が無難な選択だろう。
「とりあえずまだ足りないものあるから買い物よろしく」
「解った……本気か?」
「もちろん」
メモを見たグラウの顔が思い切り引きつる。
買い物の内容は以下の通り。
目薬、冷えピタ、栄養ドリンク効きそうなの一ダース、カフェイン錠剤。
■グラウ【スタート】
買い物から帰ってくると、リクが俺のノートパソコンでもゲームを起動してくれていたから、一通りの設定を決めてログイン。
「まずはチュートリアルな」
「……動かないぞこれ」
「移動したい場所をクリック」
「ああ、動いた」
「一回クリックで歩き、二回クリックでダッシュ」
「なるほど」
「間に障害物があると突っかかるから、何もない所を選んで押すとか、短距離クリック選択を繰り返したりして慣れるといいかもな」
マウス操作の主導権を一回ごとに変わり、これ以上ないぐらいに丁寧に説明して貰う……のは最初の三十分だけだった。
「この敵はどんな能力使うんだ?」
「ほら後はとりあえず敵クリック、クリック。アビとか適当に使って慣れとけ」
「じゃあこのマップは?」
「それはだな、なんかこうぐわーっと防御的な」
徐々に適当になり。
三時間後には……―――
「……リク」
「……」
「リク、このアイテムはどんな効果があるんだ?」
「……ググれ」
「いや、出てこないから」
ネットゲームは色々と人を荒ませる物だと学ぶこととなった。
■柳【プレイ中】
やはり慣れた場所でプレイするのがいいだろうとマンションでプレイし、実家にいるアゲハと協力しつつレベル上げと言う形になった。
【ヤナギ:一時間ずつ試して同じレベルか少し下の方がやりやすいと思った】
【アゲハ:私も、時間も掛からないしアイテム量も少ないし】
【ヤナギ:なら一つ前の狩り場に戻るってことで】
【アゲハ:了解】
クリックで操作しながら逆の手で会話を続けつつ、もと来た道を引き返す。
ゲームを始めて四時間経過してそろそろ目が痛くなってきた。
「コーヒーお代わり入る? 軽い物作ったから一休みしたらどう」
「頂きます、そうですね、あまり長く続けるのも効率が悪そうですし」
よい香りのするコーヒーを飲み、サンドイッチを食べひとごこちついて、思った以上に画面を見続けるのは負担が大きいのだと自覚する。
【ヤナギ:その前に食事するから三十分ほど小休止】
【アゲハ:りょうかーい! 私もご飯食べてくる!】
安全な場所で、画面はそのままにテーブルへと移動する。
「大変そうね、私も手伝った方がいい?」
「いえ、まだどうなるか解りませんし、全員重傷も考えられますから。とりあえず様子見で」
「解ったわ、色々周りのことやって手助けするから、柳はゲーム頑張ってね」
「助かります」
綺麗に食べ終え確認のために画面に目を戻すとアゲハからメッセージが届いている。
どうやら、同じく実家でゲームをしているリクとグラウの様子の報告らしい。
【アゲハ:おにぎり持って行ったらりっくん部屋に素が出てきてびっくりした。グラくんは色々聞いてきて大変】
なにやら起きているらしい片鱗は伺えるのだが……あまり興味はわかなかったので適当に返事をしておいた。
【ヤナギ:そうですかがんばれ】
■ヴィオレット【プレイ中】
現在『集中する為』と『大勢での情報交換』を目的として、居候先ではなくネット喫茶に籠もってゲーム中。
こういった遊びをするのは初めてだけれど、単調な作業は一度嵌ると中々やり込んでしまう物だし、やることもそれなりに多いから中々に面白い。
【ヴィオ:うん、大分操作も覚えてきたわ】
【黒薔薇:レベルが上がったからか敵も楽に勝てるようにもなってきましたね】
【ヴィオ:そうね、こうして地道にやるのは楽しいかも。でもそろそろ次の狩り場に移る?】
【黒薔薇:その前にアイテムにも慣れておきたいんですが】
【ヴィオ:それもそうね、色々となれておかないと】
レベル上げも大事だけれど、当日に備えて何が有効かを調べて対策を練ることだって大切だ。
「って……え?」
黒薔薇事ローザのキャラがファンファーレと共に、綺麗な薔薇の花びらをあたりに振らせている。
キラキラと光るポリゴンの花片は、地面に付く前にスウッと透明になり地面に残ることなく消えていった。
【黒薔薇:楽しそうだったんで、使ってみたかったんです】
くるりと回ってみせる黒薔薇はとても微笑ましく思えてしまうのは、きっと自分だけではない筈。
「楽しそうね」
「ゲームは楽しむ物ですから」
ブースを囲う敷居越しに顔を出したローザに微笑み返し、ひらひらと手を振る。とても近い距離には居たけれど、間にある壁一枚は会話をする分には迷惑になってしまう。
けれど最もローザがしたように、すぐに超えられる距離でもある。
「一旦休憩にしない?」
「良いですね。ついでにオープンスペースが空いたそうだから、一緒に移動してくれるともっと嬉しいんですが」
「……!」
どう答えるかなんて決まってる。
■アゲハ【休憩中】
ゲーム開始から十二時間ほど経過し、何度目かの休憩突入中。
時計を見ればもうすぐ二時になる。
体力的には徹夜も出来るけど、後々のことを考えると切りの良いところで切り上げて、少し寝た方が良さそうだ。
「ふぁー、疲れたー!」
ずっと画面とにらめっこしていたお陰ですっかり体が硬くなってしまった。大きくのびをしてから、働かせっぱなしの頭を休ませようとミルクと砂糖たっぷりの紅茶を片手に戻ると、チャットにコメントが届いていたのに気づいて内容を確認する。
【ククルカン:もうつかれたー!】
【エインガナ:えー。 でもねむい、めがいたいよう】
これは、根を詰めているとより一層やりたくなってくる現象。
簡単に言えば現実逃避だ。
けれど実際に疲れているのも良く解る。
ちなみにククルカンが渉でエインガナが儚だ。
【アゲハ:紅茶入れてたー、私も疲れたから、明日またがんばろうね】
【ククルカン:賛成!】
【エインガナ:うん、おやすみなんだよー】
パソコンの方も酷使し過ぎたとログアウトして電源を落とす。
すぐにでも寝たいところだけど、お風呂にでも入らないと頭がさえて眠れなさそうだ。
通りかかりにりっくんの様子を見ていこうとノックをして扉を開く。
「そろそろ休んだ方が……」
「俺もうちょっとー」
「……悪いなアゲハ、もう少ししたら休むから」
画面を見続けているリクと、深々と溜息を付くグラウが寝れるのは、まだまだ先になりそうだった。